大一番
今日は、昨日からの疲れが取れず、まだ体と頭が重たかった。
午前中に、銀行に行って自動積立の金額を変えてしまおうと思った。
何故かといえば、もうこれから、稼ぎ口がないし普通預金の金額も目減りしていて、積み立てストップになるかも知れないと考えたからだ。
銀行に行くのは憂鬱だった。
何故かといえば、受付の人との対話があるからだ。それでも、僕は思い切って重い腰を上げた。
昼前にゆうちょ銀行に行き、受付にいた小太りの中年男性に積み立て額を変更したいです。と声をかけた。
どうぞ、と受付の男性は、隅の方のブースに僕を案内した。
いよいよ、今日の大一番が始まった。
「金額をいくらに変更したいですか?」とむこうが聞いてきた。
「ご、五千円で」と僕は言った。
「それでは、こちらの用紙に、住所とお名前と通帳の記号と番号をお書き下さい。それから、通帳の印鑑をお持ちでしょうか?」
はい。持っています。とぼくは、できるだけ丁寧に答えた。そして、用紙が手渡された。
ぼくは、書いた。住所と名前と記号と番号を。言われた通りに。
印鑑を持ってきて良かったと、僕は心のうちに安堵した。ホッと。
「それでは、少しお待ち下さい。手続き致しますので。」と彼は言い放ち、後ろの方へ去っていった。
僕は、少し安堵した。一時休戦だ。
少しして、彼はやって来た。「今月の積み立てには間に合いまんが、来月から、五千円の積み立てになります。ありがとうございました。」
と彼は早くも締めくくりにかかった。
そこで、ぼくは、素早く、ありがとうございました。
と言い放ち、さりげなく去りたかった。
でも、緊張のあまりか、声があまり出なかった。かすれていた。「あ、ありがとうございました…。」
相手にも、緊張感が伝わったらしく、また最後に僕を小馬鹿にしたのか、かすれた声で何か言った。しかし、僕の耳には届かなかった。そうなると、僕の渾身のありがとうございましたも、聞こえなかったのかもしれない。その後、僕が通帳と用紙の控えを慌ててポーチにしまっているあいだ彼は同情するように黙っていた。
そんなこんなで、僕は僕の大一番を終えた。
僕は、ホッと一息をついた。